Photo by Akemi Katsuno (Love the Life)
07. ドローイングに込めたもの

河上:ここで野井さんの展覧会をさせていただいて、ドローイングを拝見して感じるのは、野井さんはそこに描かれた空間ができてからどうなっていくか、もしかすると2年後とか、3年後の姿を描いてはるんやなあということなんです。ふつうのデザイナーや建築家は完成直後の姿を描きますよね。特に「チャーリーブラウン」は店が無くなる直前に行ったんですが(2005年6月末に閉店)、あのドローイングそのままの風景なんですよ。僕らはデザイナーとしてそういうことを考えていかないかんのやろうなあと思いました。


Photo by Akemi Katsuno (Love the Life)

野井:今回展示させてもらってる絵は店が営業してる状態のものが多いんですけど、その絵に至るまでにはここにある何倍もの、描いては放り、描いては放り、がいっぱいあるんですね。そういうのはもっと勢いにかけてぱっぱっとやる。それがほんとのドローイングの有様なんです。
先ほど橋本さんがちらっと言わはったことにもつながるんですけど、30代くらいの若い設計とかデザインの人は、コンピュータに頼ろうとしてるな、と思うんです。僕はコンピュータが苦手で、ほとんど使うことはないんですけど、あれってぱっと画像が出るんですよね。すぐ置き換えることも出来るし、付け足すことも出来る。そうすると疑いたくなるんですね。考えて生み出されたものではなくて、指先の反応だけでイメージを処理してないか。ほんとに自分のものが出てるのか、どっかにあるものをそのまま引用してるのか。悪く言えば、そのテクニックを競い合ってるだけなんやないかと。驚かしたら勝ち。早く出来れば勝ち。とりあえず上手くまとめたやつを持ってきました。それでは乱暴やなあと。そういうところで勝負されると、ほんとに大事なデザインワークが消えていく。こうして絵を見ていただいたのは、仕事に対する取り組み方が間違っていませんか、っていう、メッセージでもあるわけです。
描き過ぎるくらい描き込んでるのは、自分の頭の中で想像しながら、営業したらこないなるやろうという期待も入ってます。それを施主さんに見てもらうとね、うわー、よう流行ってますなあ、言うて喜んでくれはるんです。人を描いてるのはね、お客さんが寛いでる姿、これが無いとほんとの空間のつながりが生まれないだろうという意図なんです。

河上:みんなこのドローイングを見て驚いてますし、愕然としてます。特に若い子たちには何か感じるものあるんじゃないかなあと思います。

野井:絵そのものは上手くもなんともないんですけど、ただ必死で描いてるということだけは分かると思うんです。だから、見ていただいているのは情熱を傾けてる姿なのかな、という気がするんですね。自分で言うのは恥ずかしいんですけど。

河上:そこにパン屋さんのドローイングがあるんですが(*49)、パンのひとつひとつが何パンか分かるくらい描き込まれてるんですよ。


Photo by Akemi Katsuno (Love the Life)

野井:わりとあんパンは好きでね。一番手前のやつがあんパンなんです。
(会場笑)

河上:ここではもちろん建物のデザインをされてるんですが、主役は空間じゃなくて、パン屋さんはパンが主役やし、バーやったら呑んでる人が主役やし、みたいなことがドローイングできちんと伝わって、勉強になるなあと思いました。