Photo by Kanemitsu Ajisaka (SKKY)
05. アドリブで場を作る

小泉:さて、あっという間に時間は過ぎまして、質問コーナーをとらないといけないようなんですが。

野井:三木さん(*28)なんかあります?
(会場笑)

三木:質問と言うよりも先ほどの松本君の話しに近いんですが、実は野井さんの事務所が7階で僕が6階という時期が25年くらい続きまして。いまはどちらも違うところに居てるんですが、一緒に仕事したケースも何回かあるんですね。ある串カツ屋さん(*29)の仕事をご一緒した時だったんですが、左官の壁が全部綺麗に出来た現場で野井さんと打ち合わせしてると「綺麗過ぎんなあ」とか言いはじめて。近くにあった串カツの串を20本ほど持って、いきなりギャーッと行くんですよ。左官屋さんそこに居てるんですよ。
(会場笑)
「野井さんこれクライアントOKしてます?」言うたら「いや、気分や、ええねんこれで」と。完成した店にまたご一緒したんですが、その時の串のラインがとっても心地いいんですね。設計すると言うよりも一緒にその場を作っていくっていう感覚に、凄い方やなあと感じました。まるでジャズやってるみたいな感じで、アドリブで組み立てていくんですね。えー野井さんへの質問。

野井:はい。

三木:この本の中に、向かいのピッツェリアの彼の、お父さんの商業施設の絵は載ってるのに、そのピッツェリアの絵は載ってないんですね。僕は野井さんに「あかんてそれ」って、展覧会の初日に来て文句言ったんですが。その後どうなりましたか。

野井:あの、三木さんのご指摘よく分かります。中井君がこの本を作ろうと言ってくれたこと、彼がバックで一生懸命頑張ってくれてるいうのはもちろん分かってるんです。

三木:何が言いたかったかというと、親子二代の絆を繋いでいくような野井さんのデザインが、とても素晴らしいと思うんです。さっきの「後でまた木を足しましょう」みたいなこと以上にね。それを本には載せずに「まあ載ってなくてもええやん、分かるやろ」という感覚で野井さんが彼とコミュニケーションしてるって、なかなかいい関係ですよね。彼自身も「うん、そんなもんやろ」って言ってるのがすごくいいなあって思って。普通はクライアントの顔が見えたら、載せとこうかな、って気持ちがあるはずなんですけど、そうしない。いい加減と言えばいい加減なんですけど、潔いな、と感じました。

野井:ありがとうございました。はい、そうなんです。まだ載せるとこまでいってないなと。もちろんそれは彼の責任じゃないんです。僕の責任なんですけど、表現の甘さがあるなと思ってるんです。

小泉:うーん、突っ込みにくいんですが。どこがですか?って聞きたいところなんですけどね。
(会場笑)


Photo by Kanemitsu Ajisaka (SKKY)

野井:すごく美味しいピザ屋さんなんです。ミシュランの本あるでしょ。あの星じゃなくて顔のマークの方をいただいてるんですよ。あれの基準て僕もあんまり分からへんのですけど、なんか5000円くらいまでで十分満足できて、すごくバランスの取れてる店ということらしいですね。ここでのバランスの中にはインテリア、エクステリアのデザインも含まれているわけです。
本当はぜひこの後、食べに行ってほしかったんですけど。彼が体調崩されて、残念ながら今日は閉まってるんです。予約しないと行けないような店なんですよ。メニューだけ言っときますね。一番あっさりしてるビザで、水牛のチーズのピザってあるんですよ。これが大きいサイズを頼んでも二人くらいで十分いける。これは絶対食べて下さい。それとムール貝というやつですね。こんなおっきいんですよ。たぶん天満市場からの仕入れやと思うんです。だんだんお腹空いてきたんでこんな話しになってますけど。
(会場笑)

小泉:じゃ、もう少しだけ質問を続けたいと思います。

野井:有馬さん(*30)なんかあります?
(会場笑)

有馬:何年か前にはじめて大阪で個展をした時に野井さんがいらして、いいねって言って下さって、それからのご縁ですごくお世話になってます。杉の木で作品を作ってるんですけど、ちょっと凹んだ作品があって、それは手のひらに乗って転がされてるような気持ちいい感覚を表現したいと思って作ったんですね。それを見て手のひらだと言った人は誰も居なかったんですけど、野井さんが来た瞬間に「これは手のひらみたいだね」って言われたんです。恥ずかしくなっちゃって、野井さんには嘘をつけないなと思いました。それ以来、正直に野井さんとつき合うようにしてたら、とても良くしていただいて、いつも感謝しています。質問になってませんね。すみません。

野井:有馬さんは大分県で杉を材料に手仕事でいろいろと彫られてるんですよね。グランフロント大阪の無印良品にキッズルームがあるんですよ。あそこの壁面や床に彼の作品がぼーんとあるんで、皆さんぜひ立ち寄ってみて下さい。今日は一晩フェリーの中で過ごして来られたんですね。

有馬:そうですね。大分県の宣伝じゃないんですけど、大分港を夜の7時半くらいに出まして、朝8時前に神戸の六甲アイランドに着きました。おじいちゃんおばあちゃんが乗ってる場合が多いです。お遍路ツアーとか、お伊勢詣りとか。時間がある人にはお薦めです。
(会場笑)

鰺坂:僕から質問してもいいですか?今回野井さんに本を作らせていただいて、展覧会もやりましょうということになりまして、トークイベントはどうしましょう、と聞いたら乗って下さって、こういう場が設けられたんですね。それで、どなたとお話ししたいですか、と伺った時に小泉さんのお名前を仰いました。それはどんなお考えからだったんでしょうか。

野井:小泉さんが表現されてるものと、僕の表現してるものとの共通点を感じるんです。ひらめきと気と勢いでしょうか。話し合うなあ、と言う感じなんですね。

小泉:ありがとうございます。

2014年1月18日/iTohen(大阪府大阪市北区)
出版記念作品展「野井成正 あそびごころ」会場にて


Photo by Kanemitsu Ajisaka (SKKY)

小泉誠
家具デザイナー。1960年生東京生まれ。デザイナーの原兆英・原成光両氏に師事した後、1990年コイズミスタジオ設立。箸置きから建築まで生活に関わる全てのデザインを手掛ける。2003年にデザインを伝える場として東京の国立市に「こいずみ道具店」をオープン。国内の様々なものづくりの現場を駆け回り地域との恊働を続けている。武蔵野美術大学空間演出デザイン学科教授。
www.koizumi-studio.jp

取材協力と写真:鯵坂兼充(SKKY
取材と写真:勝野明美(Love the Life
文と構成:ヤギタカシ(Love the Life