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野井:小泉さんに質問してもいいですか。 小泉:はい。 野井:小泉さんはスプーンを考える時に何から入っていきはるんですか? 小泉:手ですね。特に道具のデザインは手から見つけたいな、と思っていまして。 いまのものづくりってなかなかそんなことができなくて、たとえば野井さんがインテリアをゆっくり作るような感じでプロダクトをゆっくり作ることは許されないんですよね。いまプロダクトデザインって3D画像で出来ちゃいますし、模型も3Dプリンターで出来るようになってきている。描いたものがそのまま出てくるんですよね。早く出てくると言うか、待ってくれない。 さっきの間(ま)って言うのは大事だなと思いますね。昔は自然に間をとれましたよね。図面を描いて送ったら、届くのに2日くらいかかるからその間にお互いがちょっと考えられるとか、また返事が届くのに間があったりとか。そういうのがなくなってますよね。インテリアデザインもそうですけど、どんどん早くなって、早くできる状況だから早くやる人がいっぱい現れちゃうんですよね。そうすると、その人の方が便利だからいいや、とか、早くやれば安くできるからいいや、となって仕事がみんなそっちへ行ってしまう。時間をゆっくり使うことは凄く貴重で大事なことなんだけど、それをみんなが許してくれない。 道具は当然原寸で出来ますから、野井さんが原寸の模型を作られていたのと同じように、手で持ってみるとかすくってみるとか、かたちって本来そこから生まれるんだな、と言うことをあらためて感じていますね。柳宗理さん(*13)が2年と少し前に亡くなりましたけど、日本のデザインのやり方として、実はもう50年、60年前くらいから柳さんがそうされてたんです。みんなが楽な方へ行ってやらなくなっただけなんでしょうね。そんなことをやってると食べていけないんですよね。 工芸という世界があるじゃないですか。工芸って、敢えて申し訳ない言い方をさせてもらうと、手だけでやってる部分があるんですよね。プロダクトデザイナーは逆に手が抜けて頭だけになっちゃってる。両方が出来るといいですよね。野井さんはきっとそうした作り方をされてると思うんです。椅子でも現物を作って確かめたり。そうした時間が許されない状況がデザインの世界にひろがっている気がします。 野井:結局どんどんどんどん早くなってるんですよね。リニアモーターカー、浮いてる奴ですね、あれが東京から名古屋間に出来て、それがうまくいくと今度は名古屋から大阪間に出来るらしいですけど。そんなんはっきり言って忙しくなるだけで、本当にいいものがだんだん消されていく気がして。巨大なお金が使われて大自然が破壊されてゆく。これは恐怖やなと。東京オリンピック(2020年)も決まったでしょ。ますますそんな心配が具体化されていく気がしますね。 小泉:前の東京オリンピック(1964年)や大阪万博(1970年)の時にもまさにそういうことが起きたんですが、あれは日本のものを世界に伝えようっていう心意気が残っていたイベントですね。大阪万博に野井さんが関わられた話しを聞いたことがあったと思うんですが。 野井:パビリオン関係の手伝いみたいな感じですね。無免許なんですけど、会場の中をジープで走ってました。 (会場笑) 小泉:当時万博で大阪が変わったことって何かありましたか。インフラと言うよりクリエーターの世界で、デザインとか建築とか、そういう人たちが動き始めたようなことはなかったですか。 野井:インテリアデザイナーとはっきり言われるようになったのはあの時期かな、と思うんです。その前は「意匠造形」とか「造形作家」とかそんな職種やったんが、あの頃から横文字っぽい言い方に変わっていったんですね。インテリアデザインと言うのが正しいかどうか分からんのですけどね。 小泉:東京だと剣持勇さん(*14)たちの活動からインテリアデザインという言葉が定着していったと思うんですけど、大阪のインテリアデザインの’歴史だとやっぱり吉尾浩次さん(*15)やその事務所にいらした野井さんが早い時期からの存在ですよね。 野井:大阪では橋爪義尚さん(*16)とか、その後に岡山伸也さん(*17)とか。岡山さんはカッコいい方ですね。 小泉:岡山さんは野井さんの先輩に当たる方なんですか。 野井:そうです。東京では境沢孝さん(*18)がアヴァンギャルドなデザインをされてましたね。小泉さんのお師匠さんの原兆英さん(*19)はジョイントセンター、杉本さん(*20)と高取さん(*21)はスーパーポテトの事務所名で活動された。大阪では吉尾さんがインテリアデザインオフィス・ノブを作られて、そのお師匠さんが橋爪さんです。安藤忠雄さん(*22)は僕がノブの前に勤めてた会社(インテルナカガヤ)の顧問建築設計家だったんですね。それで時々あの声で「野井君頼むわ」みたいな感じで、中津のちょっと向こうにあった事務所へよくスポット的に絵を描きに行ったりしましたね。 小泉:野井さんはインテリアデザインという分野が出来た頃からずっと経験されているわけですが、どうですか、最近のインテリアデザインは。 野井:絵をかける人がほとんど居ないんじゃないかと思うんです。そうするとデザインというものをどのように捉えているのかも分かり辛い。アイデアがそこで止まってまう。呑んでざっくばらんに話しをしても、表面では頑張ろうぜとか言うんですけど、ぐっと入ってはいけないんですよ。 小泉:何か目的があるから手法があるはずなのに、最初に手法から考えたり、手法をどう使うかというところで止まってしまうのかもしれませんね。すごく作品的にやるか、または商業デザインとしてクライアントのために店が効率良く流行ってゆく方法を追求するか、どっちかになってる気もします。一瞬だけ野井さんのデザインみたいに見えるようなものもいっぱいありましたけど、結局どんどんなくなってゆく。それは手法をただ置き換えてるだけだからだと思うんですね。 野井:かたちと機能が理にかなってるバランスがあると思うんです。パッと見たら悪い意味で装飾的に感じるかも分からんのですけど、そこで時間を過ごしてるうちに、なるほどな、と言う思いが生まれてくる、それが居心地やと思うんですけどね。 小泉:野井さんは安心できる居場所づくりをしてますよね。よく飲食店でホールの真ん中にぽつーんと席が作られるようなことがあるじゃないですか。野井さんはそんなことはしないで、そばに柱があって人が寄り添えるとか、安心できる場所を作ってるんだなって僕はつくづく思うんです。お店に行った時に一番大事なのは居心地ですよね。それが無いと人は来てくれないんですけど、どうも物理的に席を置いてゆくインテリアが最近多過ぎちゃって。カッコいいけど居心地が悪い、なんか気持ち悪い、っていうのが多いですよね。 野井:大抵のクライアントは損益分岐点から計算して、この坪数なら最低何人入れたい、厨房をできるだけコンパクトにして下さい、とか計算しはるわけです。こっちもなんとか近づけようと努力はするんですけど、やっぱりここには溜まりが要りますよとか、ガードが要りますよとか、話ししてゆくと席数が減ってゆく。減ってでも長年使うんやったら必要やと思うんですね。 小泉:それを「そうだな」って思ってくれる人とじゃないと仕事ができないですよね。 野井:そこで次に進むか、お断りするかが決まるわけですね。 小泉:僕もものづくりをする時に大事にしていることが3つくらいありまして。ひとつは機能的じゃないとだめですよね。野井さんが先ほど機能的という言葉を使われたのがすごく嬉しかったです。その次にタフじゃないといけない。野井さんのデザインされる店ってタフですよね。多少崩れた使い方をされても気になんないところとか。そして、その先に美しくて愛着が持てなくちゃならないというのがあると思うんです。お客さんもそうなんですけど、店を運営する人もそのお店を愛していけるような環境。店の人が店を愛してないと長持ちしないですよね。 野井:店もひとつの道具なんですね。 小泉:そうですね。そう思います。 野井:使い勝手がいいと言うのは愛情の問題やと思うんです。極端に言うと使い勝手が多少悪くても愛情があれば自分なりの知恵を加えてやり遂げようと努力するでしょ。そこがポイントなんですよ。 小泉:なぜ愛情を持てないんですかね。自分のものを作ってもらってるのに意外と消耗品のように扱ったりしますよね。僕はそう言う時に、援助交際だ、って話しをするんですよ。お金だけ払って、いい思いして終わりみたいなね。そうじゃなくて、お金は結果的なものであって、家族になって子供ができるみたいな状態になればいいんですけど。デザインの世界って、金の切れ目が縁の切れ目、みたいなすごく空しいところがありますね。それでも野井さんを見てるとなんかいつも頑張れるな、と思いながら、仕事が減ってる毎日だったりします。 (会場笑) |
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